■ 書籍紹介
『放送禁止歌』 森 達也著

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 2006年2月に、『竹田の子守唄 ふるさとからのうたごえ』というCDが発売された。歌っているのは地元の京都市伏見区竹田の人達である。この曲は赤い鳥が1971年に発売したレコードが大ヒットし、多くの人の知るところとなった。その端緒は、東京芸術座公演『橋のない川』(1965) でこの曲の旋律が使われたことによる。

 子守歌には寝かせ唄・遊ばせ唄・守り子 (子守り女) 唄の三種類ある。この唄は自身の労苦を歌った守り子唄にあたる。一種の労働歌である。歌詞の中にある「在所」という言葉は、関西で被差別部落を示し、これが元でこの曲は放送や教科書から消えていった。


 筆者の森達也は、1999年にフジテレビで放送した本書と同名のドキュメンタリー番組のディレクターである。最近では氏の取材が発端となって、下山事件の真相に肉薄した著作が相次いだことでも知られている。

 「放送禁止歌」なるものがあると思い込んでいたら、あるのは民間放送連盟が作成した「要注意歌謡曲一覧表」だった。放送適否の判断は個別に任せ、参考資料ということである。ABCの区分があって、Aは「放送しない」、Bは「旋律は使用してもよい」、Cは「不適当な箇所を削除または改訂すればよい」となっている。1983年に制度が廃止され、「一覧」も失効した。因にNHKには「日本放送協会国内番組基準」がある。
takeda赤い鳥『竹田の子守唄』

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 最後となった83年版の「一覧」には数十曲がリストアップされている。「差別・猥褻・犯罪」にまつわる曲が主である。唐十郎の『愛の床屋』、原由子の『I LOVE YOUはひとりごと』、つボイノリオの『金太の大冒険』などがAランク入り?している。中には『恋はみずいろ』 など首を傾げたくなるものもある。ここに『竹田の子守唄』は入っていない。

 理由や背景は様々だが、放送不適とされた歌に、『大島節』『網走番外地』『ヨイトマケの唄』『イムジン河』『手紙』『自衛隊に入ろう』『時には娼婦のように』などがある。70年代後半になると「放送禁止用語」が台頭し、歌全体の意味よりも、歌詞の中の単語が問題とされる場合が出てきた。


 実のところ「放送禁止歌」という正式名称はなく、制度も規定もない。関係者達が幻影に惑い、どこからの抗議もないのに過剰な自主規制に陥っていくあり様が、本書を読むと分る。
 楽曲の註釈が豊富で、歌詞の引用も多い。光文社から文庫版も出ている。

※参考文献:『竹田の子守唄』藤田 正 (解放出版社 2003)

書名
放送禁止歌
著者
森 達也
監修
デーブ・スペクター
発行所
解放出版社
発行日
2000年7月27日
判型
A5判 192頁
定価
1,800円 (税別)
ISBN
4-7592-5410-2

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2006年5月号より)