■第63回全国高校演劇大会 (宮城大会) ─舞台技術講習会レポート─

 去る7月29日〜8月3日に、仙台イズミティ21において「第63回全国高等学校演劇大会」(主催:全国高等学校演劇協議会) が開催されました。
 その一環として昨年に引き続き「舞台技術講習会」が行われました。演劇の短編に美術・照明・音響を絡めた講座です。対象は演劇部員と顧問の先生方です。

 前回(広島)と異なるところは、地元の宮城県大会の参加作品の中から戯曲を選んだ点です。作者の先生に上演時間を10分程に短縮してもらいました。また演出も講師ではなく、顧問の先生にしていただきました。おかげで稽古期間を長くとれ、前回リーディングだったのが、今回は演劇形式となりました。また前回90分の時間枠が120分に拡大されました。


会場入口の立て看板


開演前の客席

■ 舞台技術講習会
 ● とき: 8月3日 13時10分〜15時10分
  ところ: 仙台イズミティ21 小ホール
 ◆ 戯曲 『しあはせのことのは
  ・作:菅野準 (仙台二華高校教諭)
  ・演出:佐藤文隆 (白石高校教諭)
 ◆ 出演 白石高校ほか演劇部員
 ◆ 講師
  ・企画・美術/土屋茂昭 (日本舞台美術家協会)
  ・演出補/長田佳代子 (日本舞台美術家協会)
  ・舞台監督/吉木 均 (日本舞台監督協会)
  ・舞台/石井 忍 (舞台監督工房)
  ・照明/乳原一美 (日本照明家協会、東京文化会館)
      倉本泰史 (日本照明家協会、エアー・パワー・サプライ)
  ・音響/藤田赤目 (日本舞台音響家協会)

 大会はコンクール形式です。収容人数の関係もあり比較的大きな劇場が会場となります。基本的にマイクは使いません。とくに台詞と音楽の共存には苦労している様子です。

 音響のテーマは、昨年と同じく「劇場空間における音像作り」に的を絞りました。音像作りには、ある程度の知見と経験が必要です。複数のスピーカを立体的に配置し、音量差・音質差・時間差を加えます。音の空間的なイメージを持つことが大切だと付言しました。


美術の土屋講師

照明の乳原講師

 上演時間は60分以内の制限があり、入れ替え (撤去〜仕込み) の時間は20分しかありません。先立ってのリハーサルも全編の通しは事実上不能という過酷な条件です。当然のことながら舞台装置は各作品毎に仕込み替えしますが、照明や音響の機材は各校共通が基本となります。

 スピーカをバトンに吊ることはあまり普及していないようです。舞台奥に客席向きの吊りスピーカを仕込めば、どの作品でも有効なはずです。これを機に広まってもらえばよいと思います。

■ 音響プラン

 主人公は大地という名の男子高校生。亡くなった母親代わりのロボットとの心の交流が描かれます。しかしそのロボットも大地震で主人公をかばって壊れてしまい…。全ての生命を代表して「虫の声」が地面から聞こえてきます。

 音響プランは、3つの音楽と5つの効果音と1つの衝撃音で構成しました。「ロボット起動」のSEは、虫の音を素に作りました。今回の試みとして、終景で虫のSEに虫笛を合わせて使いました。4種の笛を舞台袖で音響班ほか高校生8名に奏してもらいました。

 スピーカーは全部で7系統。常設のプロセニアムとサイドの他に、第3袖幕手前にEVのSx300一対を向かい合わせに床置きしました。また正面反射板下部中央にSx300を1台ハイ下・客席向けに吊りました。もう一つは「ロボット起動」のSE専用で、同じくEVのSx300を第1バトンに真下向きに吊りました。音源一覧と聴き比べの要点を次表に示します。

スピーカー配置図は → こちら


第1場


音響オペレータの大高さん
 本講習会は技術的なことはもとより、作品作りに重点をおくというのが主旨です。全体の流れを次表に示します。
   
 初めに前説、講師紹介のあと、照明は地明り、音響無しでの上演をします。次に照明・音響の順で、プランを構築してゆく過程を解説付きで公開します。照明はインカムの音声を拡声し、プランナーとオペレータとのやり取りが直接分かるようにしました。
 音響の持ち時間は照明と同じく30分。出所のスピーカの組み合せによる音像の違いや、その変化を実際に聞き比べてもらいながら、音像作りの要点を解説しました。再生機はCD2台とメモリプレーヤ1台。卓はヤマハのLS9-32。ディレイの解説は時間の関係で割愛しました。 
 そして照明・音響を入れ、舞台機構の活用を含めての上演。最後は座談会と質疑応答です。

虫笛

虫笛の練習
■ 技術講習会の流れ

  @ 趣旨説明、装置模型の紹介、講師紹介 (10分)
  A 素通し (地明かりのみ、音響なし) (10分)
  B 出演者、スタッフ紹介 (5分)
  C 照明プランニング (30分)
  D 音響プランニング (30分)
  E 本番 (10分)
  F 座談会、質疑応答 (25分)
 講習会はこの他にも、演技/演出/コミュニケーション/部活動などをテーマに、多会場で同時に行われました。舞台技術講習会には約170名の来場がありました。終了後は舞台を見学したり、部所別に質問がありました。廃棄される舞台美術の段ボールをちぎって持ち帰る生徒もありました。

解説中の筆者

座談会
 本大会は、全国高等学校総合文化祭の一部門としても位置づけられています。1955年に始まった本大会は総文より歴史が長く、総文の筆頭部門となっています。今回の「みやぎ総文 2017」は宮城県下全域で、二十数部門が同時開催されました。仙台は演劇以外に、合唱/絵画/工芸/書道/写真/新聞/文芸などの会場となりました。インターハイ「南東北総体 2017」とも一部日程が重なり、大会中は高校生が街にあふれていました。

 当大会は、全国から約二千の演劇部の参加があります。前年から行われる各地区および県大会、そして各ブロック大会を経て選抜された12校が全国大会に進みます。8月6日から始まる「仙台七夕まつり」を避け、先に開催されました。主会場の大ホール(1450席) は連日満席。大会の模様は、NHK Eテレ『青春舞台 2017』で放映されました。
 最優秀賞には、兵庫県立東播磨高校の『アルプススタンドのはしの方』が選ばれました。甲子園球場で自校の試合を観戦している3年生4人が登場人物です。打球の音、観衆の歓声、場内アナウンス、ブラスバンドの演奏が、全編に鳴り響く音の豊富な作品でした。優秀賞の受賞3校の作品と合わせて、8月26日〜27日に東京の国立劇場大劇場で上演されました。

 大会は数年掛かりで準備されます。地元の演劇部員による生徒実行委員会も組織されました。大会を支えた関係者の熱意と尽力に頭が下がります。次回は2018年8月に長野県上田市で開催されます。

※ 写真提供:西山英樹/長田佳代子/全国高等学校演劇協議会ほか


終演後の舞台見学

役者紹介 (緑色のTシャツはみやぎ総文公式のもの)
※参考資料:「演劇創造」 第13号 (全国高等学校演劇協議会)
       みやぎ総文 演劇部門プログラム」


(ステージ・サウンド・ジャーナル 2017年9月号より)