■第62回全国高校演劇大会 (広島大会) ─舞台技術講習会レポート─

 去る7月29日〜8月3日に、広島アステールプラザにおいて第62回全国高等学校演劇大会 (主催:全国高等学校演劇協議会) が開催されました。その一環として六つの講習会が開かれました。

 「劇作」「演技・演出」「舞台衣裳」などと並んで、今回初めて「舞台技術」が取り上げられました。対象は演劇部員と顧問の先生方です。


客席の模様

舞台技術講習会
 ● とき: 8月3日 13時半〜15時
  ところ: 広島アステールプラザ 中ホール
 ◆ テキスト:『東京大仏心中』 (作・竹内銃一郎) より
 ◆ リーディング: 大岡慎治/井上ひいろ (共に広島舟入高校)
 ◆ 講師
  ・企画・舞台美術/土屋茂昭 (日本舞台美術家協会)
  ・構成・演出/長田佳代子 (日本舞台美術家協会)
  ・舞台監督/吉木 均 (日本舞台監督協会)
  ・舞台照明/乳原一美 (日本照明家協会、東京芸術劇場)
  ・舞台音響/藤田赤目 (日本舞台音響家協会)

■予選を見て

 大会はコンクール形式です。1月に、予選の一つの関東ブロック大会を、さいたま芸術劇場大ホールで下見しました。収容人数の関係からか比較的大きな劇場が会場となっています。基本的にマイクは使いません。台詞と音楽の共存には苦労している模様です。

 音響プランのうち音ネタの選択や切っ掛けの吟味あるいは音量操作については、稽古の過程で何度も試されたと推測されます。それに比して気に掛かったのは、劇場空間における音像作りが不十分なことでした。音像作りには、複数のスピーカーの立体的で適切な配置と、音の空間的なイメージを持つことが大事となります。講座における音響のテーマは「音像作り」に的を絞ることにしました。

前説と出演者紹介
質問に答える山崎さん

 出場校の上演時間は60分以内で、入れ替わり (撤去〜仕込み) の時間は数十分しかありません。先立ってのリハーサルも全編の通しは事実上不能という過酷な条件です。当然のことながら舞台装置は各作品毎に仕込み替えしますが、照明や音響の機材は各校共通が基本となります。

 
スピーカーをバトンに吊ることは普及していないようです。舞台上に客席向きに吊りスピーカーを仕込めば、どの作品にも有効なはずです。


■ 『東京大仏心中』の音響プラン

 講習会では、表現のための技術を重視したいというのが基調の考えでした。竹内銃一郎の戯曲『東京大仏心中』を、長田さんが約8分のテキストにまとめ、これを男女2名の高校生がリーディング。これに美術・照明・音響が絡みました。
 美術は広島観音高校出身の土屋さんの指導の下、地元の演劇部3校の部員が3日間かけて作り上げました。段ボールとラテックスを大量使用。並行して広島舟入高校出身の長田さんの指導の下、リーディングの稽古が進められました。

 登場人物は父娘の二人。結婚を控えた娘と、妻に先立たれた父の旅先の旅館での一夜が舞台となります。娘は婚約者以外の男性の子を宿しているという複雑な状況。父と離れたくないと言う娘は父と一線を超える関係となってしまうのか、世を儚み心中するのか。明かされないところが妙味です。小津安二郎の『晩春』からの引用があります。
 場面は三つで、順に「戦争」「夢」「結婚前夜」です。戦争は原作にはない場面で、台詞無し、装置・照明・音響による場面構成です。


照明解説中の乳原さん


大会マスコット
(手に持っている物が舞台にも)

2場

 音響プランは、3つの音楽と7つの効果音で構成しました。「雷」で始まり「雷」で終わります。音源一覧と音像・聴き比べの要点を示します。

 三枝成彰の『チェロの為のREQUIEM』は、阪神・淡路震災復興チャリティ「1000人のチェロ・コンサート」の1998年初演ライヴ盤です。戦没者の鎮魂の意味合いで使いました。重過ぎずチェロの音色の柔らかなところが、この作品の導入に相応しいと思いました。
 サティの『グノシェンヌ2』は掴み所のない節回しが、虚実ない交ぜの世界と調和します。ピアノの音色とテンポも二人の台詞の背景に合いました。

 スピーカーは全部で8個。常設のプロセニアムとサイドの他に、舞台奥に一対を向かい合わせに置きました。舞台上のバトン中央にSX300を1台ハイ下・客席向けで吊りました。今回の目玉です。もう一つ電話用の仕込みで、101MMを真下向きに吊りました。   

スピーカー配置図は → こちら

■ 『東京大仏心中』 初演
  ・とき:1992年9月
  ・ところ:東京芸術劇場 小ホール2
  ・作・演出:竹内銃一郎
  ・出演:佐野史郎/中川安奈
  ・美術:島次郎/照明:吉倉栄一/音響:藤田赤目

初演のちらし

音響解説中の筆者

 私はたまたまこの作品の初演に携わっています。階下から酔客のカラオケが聞こえてくるというト書きがあります。曲は喜納昌吉の『花〜すべての人の心に花を〜』(初演では荒井由実の『翳りゆく部屋』)。これも恰好の音像作りの材料となりました。さらにドライとエフェクトを聴き比べ、音の加工法に言及しました。

■ 技術講習会の流れ

  @ 趣旨説明、テキスト・装置模型の解説 (5分)
  A 出演者・スタッフ紹介 (4分)
  B 照明(地明かり)、音響なしの通し (7分)
  C 照明プランニング (20分)
  D 音響プランニング (20分)
  E 美術解説、舞台準備 (5分)
  F 本番 (8分)
  G 講師座談会 (25分)

終幕 中割が開く
座談会

 初めに前説、スタッフとキャストの紹介のあと、照明は地明り・音響無しのリーディングを上演します。次に照明・音響の順で、実際にプランナーがオペレータに指示を出しながらプランを構築してゆく過程を公開します。最中に司会の土屋さんが突っ込みを入れ、観客の理解を増進し、かつ笑いを誘おうという趣向です。

 音響の持ち時間は照明と同じく20分。出所のスピーカーの組み合せによる音像の違いや、その変化を実際に聞き比べてもらいました。操作は地元ワークスの山崎信明さん。QLabというソフトとPresonusのデジタル卓を駆使し、限られた時間の中で素早く対応してくれました。
 本来ならリハーサルの後に、手直しを加えて本番とすべきところですが、時間の関係で端折りました。終了後は舞台装置を見学したり、各部所に質問がありました。

 当大会には、約二千の演劇部の参加があります。前年から行われる各地区および各県大会、そして各ブロック大会を経て選抜された12校が全国大会に臨みます。年度をまたぐため予選と本選では部員が入れ替わるのが普通です。1977年の第23回からは全国高等学校総合文化祭の一部門としても位置づけられてます。

 広島大会は8月6日の平和記念式典と重なるのを避け、先に開催されました。地元舟入高校は、原爆に因む題材を取り上げるのが恒例です。土屋さんの美術プランにもその影が見られました。


舞台見学


山口県立白根高校『双眼鏡』

 最優秀賞には、岐阜県立岐阜農林高校の『Is(あいす)』が選ばれました。また上位4校は8月下旬に国立劇場でも上演がされました。大会の模様と合わせて、NHK『青春舞台 2016』で放映されました。

 大会は数年掛かりで準備され、約4千名の来場者がありました。30校近い地元の演劇部員による生徒実行委員会も組織されました。大掛かりな大会を支えた関係者の熱意と尽力に頭が下がります。次回は2017年8月に宮城で開催されます。

※ 写真提供:石井玄保/西山英樹/全国高等学校演劇協議会


※参考資料:「演劇創造」 第134号 (全国高等学校演劇協議会)
       「2016ひろしま総文 演劇部門プログラム」

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2016年9月号より)