■ 書籍紹介
『トコトンやさしい音の本』戸井武司著

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 概してこの手の本は知識の羅列に成りがちだが、本書は別である。平易な文体ながら、バーチャル音響シミュレーションなど最新の技術にも触れている。キーワードは "快音" 。洗濯機・ミシン・写真機から、ゴルフクラブ・高速鉄道まで "快音設計" の多くの実例を取り上げている。そのためになされる音響分析・音質評価・音響予測の手法を紹介している。楽器・ホール床材など舞台音響に通じる内容もある。

 著者は三菱電機中央研究所を経て、現在中央大学理工学部教授。自動車・家電・楽器などの静音化や快音設計に関する研究が専門。「低騒音化は必ずしも快適な音環境とはならない」と説く。「音がブランド力を持つ時代である」との主張に説得力がある。他にも超音波スピーカ・超音波モーター・超音波の食品加工への応用など興味を引く記事が多い。
【本書の目次 】
第1章
音とは何か
第2章
音の分析と評価
第3章
音を聞かずに観る
第4章
音のいろいろな利用技術

第5章

快適な音環境を実現するために
第6章
身近で実現されている快音化技術
第7章
シミュレーション利用による快音化

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 締め括りの項は、「幻の鐘の音色を聞く」。スペインのバルセロナに建築中のサグラダ・ファミリア聖堂(1882年着工)の未完の鐘についての、音響シミュレーションを取り上げている。12の鐘楼を含む全体の竣工は、百年後とも二百年後とも言われている。設計者ガウディは、自ら考案の細長い独特の形状をした84個超の鐘を備える構想だったという。

 ガウディは「聴くことは信仰を感じることで、見ることは栄光を感じることである」との言葉を残している。著者の研究室のウェブサイトでその鐘の音色を聞くことができる。 →戸井研究室

 榊原唯幸氏のイラストが楽しい。2色刷り。

書名
トコトンやさしい音の本
著者
戸井武司
叢書名
今日からモノ知りシリーズ
発行所
日刊工業新聞社
発行日
2004年9月30日
判型
A5判 160頁
定価
1,400円 (税別)
ISBN
4-526-05358-9

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2005年3月号より)