■ 書籍紹介
『音の雲 ずっと音の響きにこだわってきた冨田勲著

otonokumo

■ 冨田 勲

 冨田勲は、NHKのTV番組『きょうの料理』のテーマ音楽の作曲者として、あるいはシンセサイザーの先駆者として、あるいは世界各地で催された「サウンドクラウド」の仕掛人として知られている。

 彼の興味を音に向わせた原点は、幼少期を過ごした北京での事。天壇公園にあった湾曲した石壁で体験した回音現象であるという。

■ シンセサイザーとの出会い

 1970年に人生を決定づけるレコードと出会う。ウォルター・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』である。カーロスはシンセサイザー演奏家の草分けで、翌年にはキューブリックの映画『時計仕掛けのオレンジ』に曲を提供し、モーグ博士と共にその名を世界に轟かせた。(後に性転換し現在名はウェンディー)。
【本書の目次】
 1. 
北京近郊の「回音壁」
2.
ぼくの中での新しい世紀
3.
作曲家としてのスタート
4.
テレビテーマ曲の時代
5.
モーグシンセサイザーに賭ける
6.
「Snowflakes are Dancing」
7.
サウンドクラウドの誕生
8.
広がるトミタ・サウンドクラウド
bach『スイッチト・オン・バッハ』1970


 モーグ・シンセサイザーは当時の価格で一千万円。当初は製造元も分からない状況だった。何とか輸入にこぎつけたものの、税関で楽器であることの証明ができず、一ヶ月も足止めを食らったという。取扱説明書も不十分なまま格闘すること一年四ヶ月。

 初アルバム『月の光』は、1974年に米ビルボード誌のクラシック・チャートの1位を飾る。国内のレコード会社に袖にされ、何とアメリカのRCAに自力で売り込んだのだった。続けて出された、『展覧会の絵』『火の鳥』『惑星』などのアルバムも、大成功を収める。

 

■ サウンドクラウドへ

 氏のもう一つの関心事は立体音響であった。作曲活動の傍ら、NHKのラジオ番組『立体音楽堂』(1952〜)や、日本ビクターの開発したCD-4方式(1970〜)による4チャンネル録音などに、積極的に取り組む。

 それらは、1982年オーストリアのリンツを皮切りとする、野外での壮大な音の催物「トミタ・サウンドクラウド」に結実する。ドナウ川 (1984)、ニューヨーク (1986)、長良川 (1988)、シドニー (同) などでの開催へと続く。自作の5.1チャンネル化にも熱心で、DVD-Audioの可能性に期待を寄せる。

 「自分の人生は地図を見ないで進んできた」と言う。

書名
「音の雲」
著者
冨田 勲
発行所
日本放送出版協会
発行日
2003年11月25日
判型
四六判 156頁
定価
1,700円 (税別)
ISBN
4-14-005443-3

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2004年7月号より)