■ 書籍紹介
『バッタ・コオロギ・キリギリス鳴き声図鑑 —日本の虫しぐれ』 CD付

 付録のCD2枚183トラックに、バッタ、コオロギ、キリギリス、カマドウマ、カネタタキなど国内の直翅 (ちょくし)目の内121種の鳴き声が収録されています。鳥・蛙・蝉などの声が混じっているものもあります。

 直翅目とは、後脚が跳躍のために発達した昆虫で、世界中で2万種を超えるそうです。

 鳴くのは原則オス。仕組みは「こすり器」という器官で「やすり器」を擦って発音します。それぞれが翅 (はね)または脚の一対の両側にあり、種によって左右の配置が異なります。

 鳴き方は大別して三つ。メスを呼ぶ「呼び鳴き」、求愛の「誘い鳴き」、オス同士が争う「脅し鳴き」。気温によって声の早さが変わり、温度が上がると早くなります。コオロギの鳴き声の周期から気温を算出する数式も発表されています。


マツムシ

まつむしの鳴き声/波形
「あれ松虫が鳴いている...」で始まる童謡『虫のこえ』で、マツムシは「ちんちろ ちんちろ ちんちろりん」と鳴きます。本書では登場する全ての虫の音を擬声化しています。マツムシは「ピッ ピリリ」です。私には「チッチリー チリリー」と聞こえました。

 マツムシの鳴き声の波形とスペクトルを図示します。上図の波形からは、周期性はあるものの変化のあることが分かります。

 右図のスペクトルでは、低い方から一つ目の山が約2.8kHz、以降約5.5kHz/11kHz/16kHzとなっています。倍音の構成です。
 虫の声は、2〜3kHz以上に複数の山があり、10kHzを超えても衰えないのが典型です。超音波の帯域まで伸びているのが普通で、中には100kHz超もあります。


まつむしの鳴き声/スペクトル
書名
バッタ・コオロギ・キリギリス鳴き声図鑑
編著者
村井貴史

発行

北海道大学出版会
発行日
2015年9月25日
判型
A5判 208頁
定価
4,600円 (税別)
ISBN

978-4-8329-1400-1


 2011年夏から13年秋の2年強で、小笠原諸島を除く北海道から沖縄の与那国島まで踏破し、撮影と録音を遂げたというから驚きです。蚊や虻や蜂、蛭や毒蛇と闘いながらの作業といいますから、その苦労が偲ばれます。録音機材はソニーのPCM-D50に三脚と風防。野外録音には機材の進歩は欠かせません。

 著者は水族館勤務。巻末に和名/学名/分類の索引があります。

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2017年3月号より)