■ 書籍紹介
『改訂版 日本産セミ科図鑑[鳴き声編CD付]』

 セミの種類を列挙せよと言われて、10種類以上答えられる人は稀ではないでしょうか。世界には約2000種、東南アジアに約650種、本書によると日本産セミは35種1亜種とのことです。

 付録のCD (65トラック) で日本のセミ全種の鳴き声を聞くことができます。種類よりトラックの数が多いのは、独唱と合唱が分れていたり、同種でも産地が異なっていたりするためです。約半数は本土に、半数は琉球列島と小笠原諸島に生息しています。

 鳴くのはオスだけで、異性のメスを呼び寄せるのが主目的です。
 鳴き声にも色々あって、主鳴音/交尾誘導音/休息音/呼び交わし/合の手/悲鳴音などがあります。さらに種類によっては、前奏/さび/間奏/後奏があるといいますから意外と複雑です。


エゾゼミ

アブラゼミ

 本文中に種毎の波形/周波数分布/パルスの図があります。高域は例外なく30kHzを超えており、CDでは記録できない領域です。24bit 96kHzで聞くと全然違うと筆者も書いています。

 ほとんどが2000年以降の録音で、携帯型のPCMレコーダーで録られたようです。全国各地に赴くその熱意と苦労が偲ばれます。録音者の前世はメスゼミだったのかも知れません。

 効果音の中でも鳥や虫は変化がつけられるのですが、蝉は単調になりがちです。蝉の声は短歌や俳句にも詠まれる夏の風物誌です。本書は種別の出現時期や分布が分り、鳴き声に関する記述も豊富で、音作りの手助けになることでしょう。


ザンマラ・サマラギーナ (エクアドル)
書名
改訂版 日本産セミ科図鑑
編著者
林 正美,税所康正ほか

発行

誠文堂新光社
発行日
2015年4月16日
判型
B5判 224頁
定価
4,600円 (税別)
ISBN

978-4-416-61560-7


 セミの声では苦労した覚えがあります。ある台本のト書きに「握られた手の中でセミが鳴く」とあったのです。小学生以来となる捕虫網を購入して近所の公園に出発。ところが皆高所で届きません。歩き回りやっとの思いで川辺の低木にミンミンゼミを発見したのは夕刻でした。何でいい大人がと怪訝そうな人目に構わず捕獲。すぐさま持ち帰り手で握って録音。前出の悲鳴音です。何度も繰り返すと怒り出し、最後は窓から逃がしました。

 編著者全員が日本セミの会の所属。
(ステージ・サウンド・ジャーナル 2016年1月号より)