■ 書籍紹介
『音響技術史 〜音の記録の歴史〜』 森芳久ほか

 音の記録再生の技術は、1877年のエジソンによる円筒式錫箔蓄音器の発明以来、長足の進歩を遂げました。町田市にあったオーディオテクニカのギャラリー (2013年閉館) で蝋管式蓄音器の音を聴いたことがあります。帯域は狭いのですが、存外雑音は小さく、小型の円錐形ホーンから聞こえる生々しくて音量豊かな人声に驚いた記憶があります。

 舞台音響の分野もこれらの技術に依存していることは言うまでもありません。

 1952年に三越劇場での劇団俳優座公演『ウィンザーの陽気な女房たち』で、音楽をテープ再生したという記録があります。わが国の舞台音響における磁気録音機使用の始まりです。効果は園田芳龍氏。

 ● 本書の目次
 第1章 アナログとデジタル
 第2章 蓄音機誕生
 第3章 円盤式蓄音機「グラモフォン」の誕生
 第4章 電気録音の誕生とラジオの普及
 第5章 LPとEPの登場
 第6章 ステレオの登場とアナログ・オーディオの全盛期
 第7章 磁気録音の歴史
 第8章 デジタル録音の誕生
 第9章 CDファミリー
 第10章 MDの誕生
 第11章 DATの開発
 第12章 DVDの誕生
 第13章 ステレオからサラウンドへ
 第14章 SA-CDの登場
 第15章 デジタル・オーディオがもたらしたもの

 数千年の演劇史に比し電気音響の歴史は浅いのです。(日本における演劇の発生は鎌倉時代と言われてますから、約700〜800年前)

 紙数の半分はデジタルに割かれ、デジタル音響技術の発展の道筋を丁寧に追っています。書名には技術史とありますが、オーディオや音楽の文化史からの視点も確かで、技術に携わった人物や、時代背景に関する記述が手厚い。図版や写真も豊富で、巻末には折畳み式の年表が付録。

 著者の森芳久氏は、日本グラモフォン、品川無線、NHK技研を経て、1973年ソニー入社。近年まで東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科で音響技術史の講義を担当。「技術は決して無機的なものではなく、そこには熱い血が流れている」と説く。著書に『カラヤンとデジタル』。

書名
音響技術史 〜音の記録の歴史〜
著者
森芳久、君塚雅憲、亀川徹

発行

東京藝術大学出版会
発行日
2011年3月28日
判型
A4判 200頁
定価
1,800円 (税別)
ISBN

978-4-904049-25-9

 東京藝大の音楽環境創造科は、21世紀の音楽芸術、音楽環境の発展と創造を目指し、2002年に開設。卒業生は、放送局、広告会社、劇場、美術館、音楽制作、研究など幅広い分野に進んでいるそうです。
(ステージ・サウンド・ジャーナル 2015年7月号より)