■ 座・高円寺の劇場創造アカデミーの講座にあたって

■ 座・高円寺について

 杉並区の劇場「座・高円寺」が開場したのは、2009年5月。JR中央線沿いにあり、高円寺駅北口から徒歩5分です。「座・高円寺1」「座・高円寺2」「阿波おどりホール」の三つのホールを有します。「座・高円寺1」は可変式で企画事業主体、「座・高円寺2」は300席弱の固定席で、区民中心の貸館主体、「阿波おどりホール」は、地元の阿波おどりの練習場主体です。ほかに稽古場・カフェ・書庫等を備えています。設計は伊東豊雄氏。

 「NPO法人劇場創造ネットワーク」が指定管理者として杉並区から業務委託を受け、「日本劇作家協会」と「東京高円寺阿波おどり振興協会」が企画に協力しています。芸術監督には演出家の佐藤信氏、館長には劇作家の斎藤憐氏、支配人には照明家の桑谷哲男氏が、それぞれ就任しました。

※ 斎藤憐氏の死去に伴い、2012年度から桑谷哲男氏が館長に就任した。

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座・高円寺  外観

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■ 劇場創造アカデミー

 「座・高円寺」の開館と共に、「劇場創造アカデミー」という演劇学校が開設されました。劇場関係全般の人材育成を目的としており、演出・俳優・舞台スタッフ・制作・演劇研究など幅広い分野の志望者を対象としています。

 2年制で定員は一期20名。1コマ2時間で1日2コマ、年間150日以上の講座が組まれています。発声・演技・舞踊などの実技と、テキスト解読・演劇論・劇場論などの講義があります。他にも伝統演劇・映像・合気道と、総合的なカリキュラムになっています。

 講師陣は、演出家・劇作家・舞踊家・学者・舞台スタッフなど、総勢30名です。「劇場技術論基礎II」(音響) を、渡邉邦男氏 (新国立劇場) と藤田が担当しました。

 基礎課程の1年目は全科目を受講します。受講者の内訳は、演技コースが50%、舞台演出コースが30%、劇場環境コースが20%です。男女比は半々で、年齢は20歳から40歳。各地の専門学校や大学の卒業生、養成所や劇団の出身者など、舞台経験者が多いのが特徴です。

■ 音響の講座について

 シラバス作成に当たっては、音全般を扱い、音響志望でない人でも興味の持てる内容になるように心掛けました。

 音響の講座は1回2時間で週1回、6週連続です。教室は地階にある稽古場の一つで、20坪位の広さです。OHPと液晶ディスプレイそれにLANが常設されています。ウェブ上のコンテンツやソフトウェアを用い視覚に訴えたり、音を発したり触ったりと、体感できるように工夫をしました。

 1コマ2時間というのは、講師にとっても集中できる丁度いい時間なのですが、機器の準備などに手間取ると、あっという間に時間不足になるので、気をつけました。受講者は出席率が高く意欲軒昂です。教材は毎回刷り物を配布しました。

 何回か劇場でも授業をやれるとよかったのですが、叶いませんでした。設備や時間の制約もあり、音響機材の取扱いや操作という部分は不充分でした。この点は、来期の課題です。


授業風景

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■ 音響の授業科目について

 日本音響学会が行った2008年の調査によると、「音響」の授業のある国内72大学において、音響関連の科目は学部で延べ484、大学院で延べ216でした。「電気情報系」「機械系」「建築土木系」「音楽芸術系」に大別されます。 (左表参照)

 82のキーワードを挙げ、シラバスにおける出現率を調べています。学部のキーワード上位10を系別に示します。第1位は25〜50%、第10位は10〜30%の出現率です。キーワードを見るとそれぞれの系の特質が分かります。唯一非理科系である「音楽芸術系」はやはり傾向が異なります。表外11位以下のキーワードには、「フォルマント」「超音波」「オーディトリウム」「サウンドスケープ」「MIDI」等があります。

 「電気情報系」では従来の「音響工学」「電気音響工学」といった科目に加え、「音声情報工学」「ディジタル音声処理」「マルチメディア工学」などが拡充してきています。

■ 授業内容について

 「音楽芸術系」は1990年代以降増進しており、音響の科目は、17大学で108を数えます。芸団協が行った2009年の調査によると、「舞台技術」に関する学科のある大学は、21を数えます。大半に音響の科目があります。「音響情報論」「上演空間と音」「音響効果演習」「デジタルサウンド実習」「聴能形成」など多岐に渡ります。

 当アカデミーの「劇場技術論基礎II」では、「音と聴覚」「音の物理」など音の基礎から「詩の朗読と音楽」など音の表現までを、網羅的に取り上げました。「音を観る/聴く/触る」「音具を奏でる」「dBとHz」とか、「録音再生の原理と歴史」「演劇の音響プラン」「デジタルとパソコン編集」等々の内容です。

授業風景

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■ 人材育成について

 劇場・ホールなどの増加により、舞台技術スタッフは質量共にその拡充が求められています。東京芸術劇場の例をみても分かるように、従来の貸館中心の運営に比べて、主催公演の割合が高まっているということもあります。諸分野の技術の進歩が著しく、新しい機器や設備に対応できる人材の確保も必要です。

 劇場法の上程が現実味を帯びるなど、舞台スタッフを取り巻く環境は大きく変化しています。技術面はもとより創作面の資質も重視され、多様な人材の活躍が望まれます。

 美術館・図書館など他の公立文化施設に比べて、公立劇場の活動の歴史は浅く、人材育成の基盤が不充分なのは否めません。2003年の芸団協の調査によれば、就業前に体系的な学習機会が無かったと答えた舞台技術者は、回答者の60%を超えています。 (左図参照)

■ 舞台芸術系の大学

 先に触れたように、舞台芸術系の学部や大学および大学院は、増加傾向にあります。本格的な劇場を有する大学も少なくありません。京都造形芸術大学の春秋座 (2001)、桜美林大学のプルヌスホール (2003)、大阪芸術大学の芸術劇場 (2006)、昭和音楽大学のテアトロジーリオショウワ (2007)、日本大学の中ホール (2010) 等々です。 人材育成の面でも、今後大学や大学院の役割は増してゆくことでしょう。

 一口に舞台技術といっても幅広く多面的です。諸分野のハード・ソフトおよび理論・実技の全てを、一つの機関で賄えるものではありません。劇場にそれぞれ個性があるように、養成機関もそれぞれの特長を発揮すればよいのではないかと思います。

※参考資料:「舞台技術者の技能とその研修と資格制度についての研究報告書」芸団協 2004・3
      「日本音響学会誌」Vol.65 No.5 2009・5
      「舞台技術者の育成に関する調査研究報告書」芸団協 2010・3

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2010年7月号より)


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