■ 音盤紹介
『日本の音百景100選 まるかじり』 (CD2枚組)

 本CDには、日本全国の「音の風景」100景が収録されています。中味を分類すると、波や風など自然の音が27、鳥や昆虫など動物の音が26、祭など行事の音が12、産業・交通の音が11、鐘の音が10、その他・複合音が14です。特徴のあるものは、聞けば何処の音だか分かります。広島の「平和の鐘」もその一つです。

 環境庁は1996年に、「残したい "日本の音風景100選"」と題して、地域のシンボルとして、将来に残したい「音の聞こえる環境」を公募しました。事業の狙いの一つは、日常生活の中で耳を澄ませば聞えてくる様々な音についての再発見を促すため。もう一つは、良好な音環境を保全するための地域に根ざした取組みを支援するためです。
 応募のあった738件の中から、100件が選定されました。その音風景を追い、季節を狙って録音したのが本CDです。

 「音風景」は「サウンドスケープ」の訳語です。これは、1960年代末にカナダの作曲家 R.マリー・シェーファー(男性) によって提唱された概念です。

 普段の生活の中で忘れがちな、また都会の騒音の中に埋もれがちな、色々な音の存在に気づき、それらを、社会や歴史、環境や文化との関連の中で捕えようとするものです。音を聞く側の個々人の五感を重視するのが特徴です。調査研究・デザイン・教育が三つの柱です。




水琴窟

 自然音で珍しいのは、北海道オホーツク海沿岸の「流氷鳴き」です。膨張収縮や押し合いへし合いによって氷のきしむ音です。動物の鳴き声や電子音とも紛う何とも形容し難い音です。

 音楽的なものでは、富山越中八尾の「おわら風の盆」が印象的でした。三味線と胡弓を従えた優雅な唄には、独特の風情があります。日本民謡に胡弓か絡むのは珍しいことです。最南端の沖縄からは「エイサー」です。本土でいう盆踊りに当ります。 「水琴窟」や「風鈴」など音そのものが主役のものもあります。


 百年後千年後にどれだけの音が残っているでしょうか。残念なことに、人の営みに依る音は、いつかは消え行く運命にあります。音は「聴く」もの、風景は「観る」もの、これを "まるかじり"(=食) するという題名は、五感総動員で、サウンドスケープの概念に通じる命名です。

 飽き足らない人には、『音の風景 日本』という10枚組のCD (日本音声保存 2000年) があります。
題名
日本の音百景100選 まるかじり
製作
大野壽子
録音年
1997〜98年
収録時間
2時間40分
発売元
日本伝統文化振興財団
発売日
2009年
CD番号
VICG-8435〜6
定価
2,857円 (税別)

※参考ウェブサイト:残したい日本の音風景100選
          日本サウンドスケープ協会

(aip 21号より・2012年12月)