「日本劇作家大会 2014 豊岡大会」見聞録

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 去る6月12日〜15日に日本劇作家協会 (会長=坂手洋二) ほかの主催による日本劇作家大会が、兵庫県豊岡市にて開催されました。2005年の愛知県長久手以来9年振りです。

 テーマは市の鳥コウノトリに因んで「再生」、煽り文句は「演劇と温泉にどっぷりつかる !」です。「演劇」と「温泉」、結びつきそうにないこの二つの言葉が合体するとどうなるのか。そんな興味もあり、ちょうど仕事で西宮に居たので、足を延ばしました。

 豊岡へは大阪から山陰本線特急で約3時間。主会場は城崎国際アートセンター (館長=岩附E二)。本年4月に開館したばかりです。城崎温泉駅から徒歩約20分。大谿川沿いに旅館街を上った先にあります。NOMOベースボールクラブの事務所が同居してます。

 会場は他に、豊岡市民プラザ/出石永楽館/ゴールド劇場/玄武洞公園/街頭など広域複数です。プログラムは、上演・座談会・シンポジウム・劇作競技・講座・ワークショップなど4日間で約50の高密度。同時多発に繰り広げられるので、選ばないといけません。同日に開幕したサッカーW杯の模様を気にする人もありました。

 豊岡市民プラザでは、2010年より「アートスクール」という舞台芸術講座を始めました。同年日本舞台音響家協会にも講師派遣の依頼があり、PA分野を加藤明理事が、舞台音響を藤田が担当しました。劇作家の内藤裕敬も講師を勤め、今回の大会招致につながりました。

kinasaki_art_center城崎国際アートセンター

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 大会の運営は、大勢の劇作家協会員と豊岡市/NPO法人が中心となり、70名近くのボランティアが支えました。豊岡市長も連日足を運び、式典の挨拶はもとより、シンポジウムやバラエティ「城崎温泉殺人事件」の出演もこなす熱の入れようでした。

 参加者は千円の参加費と引換えに、4日間有効のパスを受取ります。協会員は劇作のみならず、俳優や演出兼任の人材も厚く、複数のプログラムに携わる人も沢山いました。演劇関係以外からは「街場シリーズ」で気を吐く内田樹/社会学者の宮台真司/映画監督の林海象/落語家の桂九雀/編集者の小堀純等々です。

 大ホールで行われた渡辺えり講演会「夢見る力」と、リーディング『をんな善哉』(作=鈴木聡、演出=中津留章仁) は超満員。竹下景子/宇梶剛士/渡辺哲/辰巳琢郎/円城寺あや等々が出演。

 各スタジオは、シンポジウム等が中心で、こちらも繁盛してました。佐野史郎と林海象による「映画と演劇」と題する対談も印象に残りました。状況劇場や天井桟敷など70年代の熱き時代の体験談や秘話が語られました。同時代を生きる者として、来し方行く末考えるところ大でした。

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『をんな善哉』


永楽館

 出石永楽館は、明治34年開業の芝居小屋。てがみ座が『乱歩の恋文』(作=長田育恵、演出=扇田拓也) を配役を新たに再々演。傀儡師と人形が幻怪の世界へと誘います。歌舞伎小屋の機構と外光を利用した演出。交錯する乱歩の半生と作品世界が、妻の目を通して描かれました。地元の参加もあって、桟敷席は大入りに。

 「劇作の鉄人」というユニークな新企画もありました。新旧2組の劇作家による即興戯曲書き下ろし対決です。指定された台詞を入れて、短編戯曲を仕上げます。鉄人チームは、マキノノゾミと鐘下辰男。3日にわたる対戦を経て、鴻上尚史/渡辺えり/西山水木による朗読。観客も加えた審査の結果、鉄人チームが若手挑戦者チームを退けました。

  ※二つの戯曲は「悲劇喜劇」2014年10月号に収録、題名は『帰郷』と『チクッと』

 閉館中のヌード劇場のゴールド劇場が一時復活し、松野井雅ひとり芝居『万華鏡三景』(作・演出=赤澤ムック、照明=樋口ミユ) が上演されました。20名で満員の狭い空間。城崎に取材し、踊子たち三人の女の性(さが) を描いた台本。色香漂う演技で観客を魅了し、市長賞を受賞。副賞の地米18キロを獲得。  ※戯曲は「悲劇喜劇」2014年10月号に掲載

 城崎国際アートセンターは、滞在型舞台芸術制作を運営の中心に据えています。これまでのアーティスト・イン・レジデンス (AIR) は、アート系が中心です。舞台芸術に特化した取組みは少ないのではないでしょうか。今回も「てがみ座公演」「こうのとり短編戯曲賞」など八つの企画がAIRにより実施されました。戯曲賞は宝塚出身の西史夏が受賞。みやなおこ/大谷亮介/根岸季衣らが朗読。

ゴールド劇場の看板

大会看板大谿川端の大会看板

 「AIRの過去・現在・未来」と題するシンポジウムも開かれました。瀬戸内国際芸術祭の総合ディレクターの北川フラムや、フェスティバル/トーキョーの元プログラムディレクターで突然の解任が物議を醸した相馬千秋らが出席。

 
ほかには、北村想/岩松了/松本修/横内謙介/平田オリザ/長塚圭司/中津留章仁/青木豪/前川知大らが参加。

 土曜日の夜に行われたレセプションには、各地から数百名が出席。協会関西支部 (支部長=土田英生) の発足も報告されました。宿までの帰り道柳並木を下ると、週末の温泉街は外湯を巡る浴衣姿の客で夜遅くまで賑わっていました。

 大都市圏以外での開催。しかし蓋を開ければ登録者は二千名を超える盛況振り。城崎町の人口は約4千です。

 
お金に余裕のない演劇関係者は、相部屋素泊まりで、コンビニを利用していました。内田樹曰く「国家の株式会社化」の進む日本ですが、この手のイベントを経済効果で量ってはいけません。

城崎温泉街駅

閉会式

 多くの関係者の奮闘もあって、開館事業としても成功裏に終わりました。2014年度のレジデンスには国内外から25の応募があり、合わせて7つの演劇とダンスが選ばれました。

 「劇作家」と「大会」、こちらも結びつきそうにない二つの言葉ですが、合体した時の力は絶大でした。沢山の人と会うことができ、刺激的な体験となりました。それにしてもこの企画力とタレント性と実行力は天晴れです。 (文中敬称略)

写真提供:豊岡市/日本劇作家協会 ほか

※参考資料 : 大会パンフレット/「地域創造」VOL.27
※「悲劇喜劇」2014年10月号は、劇作家大会の特集号のようになってます

(ステージ・サウンド・ジャーナル 2014年7月号より)